冷凍食品とは何なのか? 手元の辞書を紐解くと「冷凍庫に冷凍保存し、食べるときに出して調理できるように加工した食品類」とあります。それでは凍らせた食物はすべて「冷凍食品」と呼べるのでしょうか?
法律や機関によってその定義は多様ですが、冷凍食品と呼ぶには次の4つの条件が必要であるという基準が業界では主流のようです。
スーパーマーケットの冷凍ショーケースに陳列された食材は、魚や肉であれば頭、内蔵、骨などを、野菜なら根や葉、果物の場合は皮や種子などの食べられない部分を取り除き、下処理を済ませた状態でパッケージングされています。私たちにとっては下ごしらえをする面倒が省け、すぐに調理に取りかかれる上に、家庭での生ゴミも出ないというメリットがあります。
冷凍食品の製造者にとっても、魚肉以外の不要な部分を取り除くことによって、運送コストや低温のまま保管するのに発生するコストを抑制できますし、食品廃棄物にせず一括処理すれば、工場の発電用燃料や農業用肥料の原料などに有効活用できるなどのメリットが挙げられます。
この原則によれば、例えば「ラウンド」と呼ばれる鮮魚を丸ごと凍らせたものは冷凍食品とは呼べません。冷凍する前に切り身にしたり、エビであればむき身にしたり、フライ用にパン粉をつけるなどの加工処理をしたものが該当します。しかし、冷凍魚は冷凍食品の先駆け的存在なので、「冷凍食品の歴史」でも鮮魚の凍結事業について触れさせていただいております。
冷蔵庫で冷凍した肉や魚を解凍したときに、赤っぽい液体が出てくることがあります。この水分は「ドリップ」と呼ばれ、凍らせた際に肉や魚介類の細胞を損傷させた氷の結晶が溶け出したものです。細胞がダメージを受けると鮮度が落ちるだけでなく、うま味成分がドリップとして溶け出すため食味の劣化をも招きます。この現象は凍結時間が長い「緩慢冷凍」に生じやすく、細胞が破壊されるのを最小限に抑えるためには「急速冷凍」を実施する必要があります。
水分が凍り始める温度を「氷結点」と言い、食品によって異なりますがだいたいマイナス1℃とされており、全体が凍るマイナス5℃くらいまでの間を「最大氷結晶生成帯」と呼びます。この温度帯では氷の結晶が細胞の内外にできやすく、ここを一気に通過することで氷の結晶を小さく抑えられ、食品の鮮度と風味を守ることができるのです。
工場の出荷から各家庭の食卓に並ぶまでの流通過程において、冷凍食品に異物が混入したり汚染されたりするのを防ぐために、また、乾燥や酸化から守るために必要なのが包装です。食品を科学的な変質や微生物から保護する役割もありますが、購入する消費者に商品の情報を伝達するのも大切な役目となっています。
パッケージには食品表示法で定められた情報(保存方法、賞味期限、原材料名、添加物、内容量、栄養成分、製造者等の名称・住所、原産地など)は必須項目として、調理方法や加熱時間、誤使用を防止するための注意事項、商品の問合せ先など、生活者の保護と商品理解のための情報が、包装サイズの制約の中で余すことなく提供されています。
市販用の調理冷凍食品の包装の材料として、外袋には断熱性や酸素遮断性のあるアルミ蒸着フィルムが多く使われています。しかし、電子レンジにそのまま入れられなかったり、プラスチック資源としてリサイクルがしにくいという理由から、包装資材を見直すメーカーも出てきています。
急速冷凍した後は食品の品質低下を防ぐために、マイナス18℃以下を保つ必要があります。この℃というのは「摂氏」と呼ばれる温度の単位で、日本をはじめ多くの国で採用されています。アメリカなど一部の英語圏の国では「華氏」と呼ばれる「°F」という単位で温度を表していますが、華氏の0°Fが摂氏でいうマイナス18℃に近似します。食中毒や食物の腐敗を引き起こす菌の繁殖はマイナス15℃以下であれば停止しますが、アメリカの品質保持の研究に基づき、現在ではこのマイナス18℃が国際基準となっています。
低温の保持は加工した工場のみならず保管倉庫や小売店などにも言えることで、食品の鮮度を維持するために欠かせません。ちなみに、産地または工場から消費者の手に届くまで低温を保つ物流の仕組みは「コールドチェーン」と呼ばれていて、商品の温度上昇を最小限に抑えるために関係者それぞれが配慮や工夫をしています。冷凍食品が保存料を添加しなくてもいいのも、コールドチェーンがしっかり機能しているからに他なりません。
この条件からすると、たとえば業務用の冷凍食品としてスーパーに納入され、そこで加熱調理されたカツや唐揚げなどの惣菜は、たとえ家庭の冷蔵庫で再凍結されたとしても、一度解凍されてしまった以上、それは冷凍食品とは異なるものだという解釈になるでしょう。
以上をまとめると、前処理された後、急速冷凍され、適切な包装をされ、-18℃を保ったまま消費者に販売されるのが「冷凍食品」ということになります。これらを踏まえると、家庭でホームフリージングされた食品は厳密には「冷凍食品」とは呼べなさそうですね。
ちなみに、アイスクリームも上記のすべての条件に当てはまると思いますが、スーパーの売場を見てみても「冷凍食品」と「アイス」は明確にカテゴリー分けがされています。したがって、当Webサイトの商品情報データベースでも、アイスクリーム類・氷菓を除いた上記の定義に当てはまる冷凍食品のみを紹介しております。
※現在、商品情報データベースは非公開にしております。
<参考文献>
松村 明(編集)『大辞林 第三版』三省堂
野口 敏『冷凍食品を知る』丸善
石谷孝佑,水口真一,大須賀弘『トコトンやさしい包装の本』日刊工業新聞社
鈴木徹(監修)『解凍テクがおいしさのコツ!冷凍保存レシピBOOK』朝日新聞出版
中居惠子『保存食の大研究 長もちする食べもののひみつをさぐろう』PHP研究所
野口正見,白石真人『ぜひ知っておきたい日本の冷凍食品』幸書房
小原哲二郎 [ほか]『最新冷凍食品事典』朝倉書店